血糖値を安定させる食材選びの基本は「GI/GL値」を理解し、「3つの柱」となる食材を戦略的に食事へ加えることです。科学的根拠に基づいた「賢い選択」で、自分に合った食生活をデザインしましょう。
GI (グリセミック・インデックス)は、食後の血糖値上昇の「スピード」を示す指標です。 一方でGL (グリセミック・ロード)は、実際に食べる量を考慮した血糖値への「総負荷量」を示します。 まずはこの2つの指標を理解することが賢い食材選びの第一歩です。
水溶性食物繊維は胃腸でゲル状になり、糖の消化・吸収を遅らせ、血糖値の急上昇を抑えます。
主な食材: オーツ麦、大麦、豆類、ブロッコリー、アボカド、チアシードなど。
消化に時間がかかるため、食事全体の吸収速度を緩やかにし、血糖値のピークを抑えます。
主な食材: アボカド、ナッツ類、青魚、鶏胸肉、卵、大豆製品など。
一部のポリフェノールは、糖を分解する消化酵素の働きを阻害し、吸収を穏やかにする効果が期待されます。
主な食材: ベリー類、緑茶、カカオ70%以上のチョコ、シナモンなど。
はじめに:血糖値の「見える化」から、賢い「選択」へ
前回の記事では、持続血糖測定(CGM)というテクノロジーがいかにして私たちの「見えない」血糖値の動きを24時間の「映画」のように可視化し、予防医療の新たな扉を開くかについて探求しました。血糖値スパイクという静かなる脅威と、食事に対する驚くほどの「個別性」を理解した今、私たちは次のステップに進む準備ができました。それは、得られた「知識」を、日々の「行動」へと転換することです。
本記事からは、CGMを活用して血糖スパイクを抑制するための具体的な食事戦略について、数回に分けて解説していきます。今回はその第一弾として「食材編」をお届けします。
家を建てる際に、まず最初に頑丈で質の良い材料を選ぶことが重要なように、食生活をデザインする上でも、どのような「食材」を選ぶかがその土台を決定づけます。血糖値を安定させることは、決して厳しい食事制限や我慢を意味するものではありません。むしろ、科学的根拠に基づき、日々の食事に何を「戦略的に加える」か、あるいは何を「賢く置き換える」か、という知的で創造的なプロセスなのです。
それでは、あなたの食卓をより豊かに、そして血糖に優しいものへと変えるための、具体的な食材選びの旅を始めましょう。
1. 食材選びの基礎知識:GI値とGL値という「2つの物差し」
食材選びの戦略を語る上で、まず理解しておきたいのが「グリセミック・インデックス(GI)」と「グリセミック・ロード(GL)」という2つの基本的な指標です。
【専門用語解説】グリセミック・インデックス(GI: Glycemic Index)とは?
特定の食品に含まれる炭水化物が、食後の血糖値をどのくらい速く、そして高く上昇させるかを示す指標です。 ブドウ糖を100とした相対値で表され、一般に70以上を高GI、56〜69を中GI、55以下を低GI食品と分類します。 例えるなら、GI値は「食品のスピード」です。同じ量の炭水化物でも、高GI食品はスポーツカーのように血糖値を急上昇させ、低GI食品はセダンのように穏やかに上昇させます。
【専門用語解説】グリセミック・ロード(GL: Glycemic Load)とは?
GI値に、その食品一人前に含まれる炭水化物の量を掛け合わせ、100で割った値です。GIが「スピード」なら、GLはその食品が実際に血糖値に与える「総負荷量」や「インパクト」と考えることができます。 例えば、スイカのGI値は比較的高めですが、水分が多く炭水化物量が少ないため、GL値は低くなります。つまり、「速いけれど軽い車」なので、全体への影響は小さい、というイメージです。
シドニー大学の研究チームをはじめとする多くの研究機関がGIとGLのデータベースを公開しており、これらの指標は、血糖管理に関心のある人々にとって有用なツールとして認識されています (The University of Sydney, 2025)。
ただし、これらの値はあくまで平均的な指標です。前回の記事で触れたように、食事への応答には大きな個人差が存在します (Zeevi et al., 2015)。GIやGLを参考にしつつも、最終的にはご自身のCGMデータで「自分にとっての答え」を確認することが、この上なく重要なのです。
2. 血糖スパイクを抑える「3つの柱」となる食材群

それでは、具体的な食材選びの戦略を見ていきましょう。ここでは、血糖値の安定に貢献する3つの重要な要素、「食物繊維」「良質な脂質とタンパク質」「ポリフェノール」に焦点を当てます。
柱①:食物繊維 ― 糖の吸収を穏やかにする「ブレーキ」
食物繊維、特に水に溶けやすい水溶性食物繊維は、血糖コントロールにおける最も強力な味方の一つです。
【メカニズム】
水溶性食物繊維は、胃や腸の中で水分を吸収してゲル状になります。このゲルが、同時に摂取した糖質の消化・吸収を物理的に遅らせることで、食後の血糖値の急上昇、すなわちスパイクを抑制する「ブレーキ」のような役割を果たします。
世界的に権威のある医学雑誌『The Lancet』に掲載された、世界保健機関(WHO)の要請による大規模なメタアナリシスでは、食物繊維の摂取量が多いほど、体重、血圧、コレステロール値が改善し、2型糖尿病や心血管疾患、大腸がんの発症リスクが有意に低下することが報告されています (Reynolds et al., 2019)。
【戦略的に選びたい食材】
- 全粒穀物: オーツ麦(オートミール)、大麦、玄米
- 豆類: レンズ豆、ひよこ豆、大豆
- 野菜: ブロッコリー、アボカド、ゴボウ、オクラ
- 果物: りんご、ベリー類、柑橘類
- 種子類: チアシード、フラックスシード
柱②:良質な脂質とタンパク質 ― 安定したエネルギー供給の「並走車」
炭水化物だけの食事は、血糖値を急上昇させやすい傾向にあります。 ここに良質な脂質やタンパク質を組み合わせることは、非常に有効な戦略です。
【メカニズム】
脂質とタンパク質は、炭水化物に比べて消化に時間がかかり、胃から小腸への食物の移動を遅らせる効果(胃内容物排出遅延)があります。これにより、炭水化物の吸収速度が全体的に緩やかになり、血糖値のピークが抑えられます。これらは血糖値スパイクの「緩衝材」であり、持続的なエネルギーを供給してくれる頼もしい「並走車」です。
例えば、医学雑誌『Diabetes Care』に掲載された研究では、2型糖尿病患者が炭水化物の前にホエイプロテイン(乳清タンパク質)を摂取すると、食後の血糖値上昇が有意に抑制されることが示されました (Ma et al., 2014)。 また、アーモンドのようなナッツ類を食事に加えることで、食後血糖応答が改善することも報告されています (Josse et al., 2007)。
【戦略的に選びたい食材】
- 良質な脂質: アボカド、ナッツ類(アーモンド、くるみ)、オリーブオイル、青魚(サバ、イワシ)
- タンパク質: 鶏胸肉、魚、卵、ギリシャヨーグルト、豆腐・納豆などの大豆製品
柱③:ポリフェノール ― 天然の「血糖値モジュレーター」
これは、一歩進んだ食材選びの視点です。植物が自身を守るために作り出す化学物質であるポリフェノールの中には、私たちの血糖コントロールに好影響を与えるものが存在します。
【メカニズム】
一部のポリフェノールには、炭水化物を分解する消化酵素(α-アミラーゼやα-グルコシダーゼなど)の働きを阻害する作用があることが知られています。 これは、糖の分解そのものを少し遅らせることで、体内への吸収を穏やかにする、天然の「血糖値モジュレーター(調節役)」と言えます。
特に、ブルーベリーなどに豊富に含まれるアントシアニンというポリフェノールは、食後の血糖値やインスリン応答を改善する効果が複数の研究で示唆されています。 オックスフォード大学出版の学術誌に掲載されたメタアナリシスでも、ベリー類の摂取が心血管代謝系のリスク因子を改善する可能性が報告されています (Luo et al., 2021)。
【戦略的に選びたい食材】
- ベリー類: ブルーベリー、ラズベリー、いちご
- お茶: 緑茶(特にカテキンが豊富)
- その他: ダークチョコレート(カカオ70%以上)、シナモン、ターメリックなどのスパイス類
まとめ:知識を「選択」に変え、自分だけの食生活をデザインする
今回は、血糖値スパイクを防ぐための食材選びの3つの柱として、①食物繊維、②良質な脂質とタンパク質、③ポリフェノールをご紹介しました。
重要なのは、何かを極端に制限する「引き算」の発想ではなく、これらの有益な食材を日々の食事にどう組み込むかという「足し算」の発想を持つことです。白米に少し大麦を混ぜてみる、サラダにナッツとオリーブオイルを足してみる、食後にデザートの代わりにベリーを一掴み食べる。こうした小さな「賢い選択」の積み重ねが、あなたの血糖プロファイルを着実に安定させていきます。
しかし、忘れてはならないのは、これらの一般原則が「あなた」にどう当てはまるかは、最終的にはあなた自身の身体だけが知っているということです。ぜひ、CGMという強力なフィードバックツールを手に、これらの食材がご自身の血糖値にどのような影響を与えるか、楽しみながら探求してみてください。
次回は「Tipsその2(食べ方・タイミング編)」として、同じ食材でも、食べる順番や時間帯によって血糖応答がどう変わるのか、その科学的根拠と実践法について深掘りしていきます。
参考文献
- Atkinson, F.S., Foster-Powell, K. and Brand-Miller, J.C. (2021) ‘International tables of glycemic index and glycemic load values: 2021’, American Journal of Clinical Nutrition, 114(6), pp. 1625–1632.
- The University of Sydney (2025) Glycemic Index. Available at: https://glycemicindex.com/ (Accessed: 14 August 2025).
- Zeevi, D., Korem, T., Zmora, N., et al. (2015) ‘Personalized nutrition by prediction of glycemic responses’, Cell, 163(5), pp. 1079–1094.
- Reynolds, A., Mann, J., Cummings, J., et al. (2019) ‘Carbohydrate quality and human health: a series of systematic reviews and meta-analyses’, The Lancet, 393(10170), pp. 434–445.
- Ma, J., Stevens, J.E., Cukier, K., et al. (2009) ‘Effects of a protein preload on gastric emptying, glycemia, and gut hormones after a carbohydrate meal in diet-controlled type 2 diabetes’, Diabetes Care, 32(9), pp. 1600–1602.
- Josse, A.R., Kendall, C.W.C., Augustin, L.S.A. and Jenkins, D.J.A. (2007) ‘Almonds and postprandial glycemia — a dose–response study’, Metabolism, 56(3), pp. 400–404.
- Luo, X., Wang, J., Li, J., et al. (2021) ‘The effect of berry consumption on the risk of cardiovascular diseases and their risk factors: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials’, Critical Reviews in Food Science and Nutrition, 61(19), pp. 3251–3267.
- Hanhineva, K., Törrönen, R., Bondia-Pons, I., et al. (2010) ‘Impact of dietary polyphenols on carbohydrate metabolism’, International Journal of Molecular Sciences, 11(4), pp. 1365–1402.
ご利用規約(免責事項)
当サイト(以下「本サイト」といいます)をご利用になる前に、本ご利用規約(以下「本規約」といいます)をよくお読みください。本サイトを利用された時点で、利用者は本規約の全ての条項に同意したものとみなします。
第1条(目的と情報の性質)
- 本サイトは、医療分野におけるAI技術に関する一般的な情報提供および技術的な学習機会の提供を唯一の目的とします。
- 本サイトで提供されるすべてのコンテンツ(文章、図表、コード、データセットの紹介等を含みますが、これらに限定されません)は、一般的な学習参考用であり、いかなる場合も医学的な助言、診断、治療、またはこれらに準ずる行為(以下「医行為等」といいます)を提供するものではありません。
- 本サイトのコンテンツは、特定の製品、技術、または治療法の有効性、安全性を保証、推奨、または広告・販売促進するものではありません。紹介する技術には研究開発段階のものが含まれており、その臨床応用には、さらなる研究と国内外の規制当局による正式な承認が別途必要です。
- 本サイトは、情報提供を目的としたものであり、特定の治療法を推奨するものではありません。健康に関するご懸念やご相談は、必ず専門の医療機関にご相談ください。
第2条(法令等の遵守)
利用者は、本サイトの利用にあたり、医師法、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)、個人情報の保護に関する法律、医療法、医療広告ガイドライン、その他関連する国内外の全ての法令、条例、規則、および各省庁・学会等が定める最新のガイドライン等を、自らの責任において遵守するものとします。これらの適用判断についても、利用者が自ら関係各所に確認するものとし、本サイトは一切の責任を負いません。
第3条(医療行為における責任)
- 本サイトで紹介するAI技術・手法は、あくまで研究段階の技術的解説であり、実際の臨床現場での診断・治療を代替、補助、または推奨するものでは一切ありません。
- 医行為等に関する最終的な判断、決定、およびそれに伴う一切の責任は、必ず法律上その資格を認められた医療専門家(医師、歯科医師等)が負うものとします。AIによる出力を、資格を有する専門家による独立した検証および判断を経ずに利用することを固く禁じます。
- 本サイトの情報に基づくいかなる行為によって利用者または第三者に損害が生じた場合も、本サイト運営者は一切の責任を負いません。実際の臨床判断に際しては、必ず担当の医療専門家にご相談ください。本サイトの利用によって、利用者と本サイト運営者の間に、医師と患者の関係、またはその他いかなる専門的な関係も成立するものではありません。
第4条(情報の正確性・完全性・有用性)
- 本サイトは、掲載する情報(数値、事例、ソースコード、ライブラリのバージョン等)の正確性、完全性、網羅性、有用性、特定目的への適合性、その他一切の事項について、何ら保証するものではありません。
- 掲載情報は執筆時点のものであり、予告なく変更または削除されることがあります。また、技術の進展、ライブラリの更新等により、情報は古くなる可能性があります。利用者は、必ず自身で公式ドキュメント等の最新情報を確認し、自らの責任で情報を利用するものとします。
第5条(AI生成コンテンツに関する注意事項)
本サイトのコンテンツには、AIによる提案を基に作成された部分が含まれる場合がありますが、公開にあたっては人間による監修・編集を経ています。利用者が生成AI等を用いる際は、ハルシネーション(事実に基づかない情報の生成)やバイアスのリスクが内在することを十分に理解し、その出力を鵜呑みにすることなく、必ず専門家による検証を行うものとします。
第6条(知的財産権)
- 本サイトを構成するすべてのコンテンツに関する著作権、商標権、その他一切の知的財産権は、本サイト運営者または正当な権利を有する第三者に帰属します。
- 本サイトのコンテンツを引用、転載、複製、改変、その他の二次利用を行う場合は、著作権法その他関連法規を遵守し、必ず出典を明記するとともに、権利者の許諾を得るなど、適切な手続きを自らの責任で行うものとします。
第7条(プライバシー・倫理)
本サイトで紹介または言及されるデータセット等を利用する場合、利用者は当該データセットに付随するライセンス条件および研究倫理指針を厳格に遵守し、個人情報の匿名化や同意取得の確認など、適用される法規制に基づき必要とされるすべての措置を、自らの責任において講じるものとします。
第8条(利用環境)
本サイトで紹介するソースコードやライブラリは、執筆時点で特定のバージョンおよび実行環境(OS、ハードウェア、依存パッケージ等)を前提としています。利用者の環境における動作を保証するものではなく、互換性の問題等に起因するいかなる不利益・損害についても、本サイト運営者は責任を負いません。
第9条(免責事項)
- 本サイト運営者は、利用者が本サイトを利用したこと、または利用できなかったことによって生じる一切の損害(直接損害、間接損害、付随的損害、特別損害、懲罰的損害、逸失利益、データの消失、プログラムの毀損等を含みますが、これらに限定されません)について、その原因の如何を問わず、一切の法的責任を負わないものとします。
- 本サイトの利用は、学習および研究目的に限定されるものとし、それ以外の目的での利用はご遠慮ください。
- 本サイトの利用に関連して、利用者と第三者との間で紛争が生じた場合、利用者は自らの費用と責任においてこれを解決するものとし、本サイト運営者に一切の迷惑または損害を与えないものとします。
- 本サイト運営者は、いつでも予告なく本サイトの運営を中断、中止、または内容を変更できるものとし、これによって利用者に生じたいかなる損害についても責任を負いません。
第10条(規約の変更)
本サイト運営者は、必要と判断した場合、利用者の承諾を得ることなく、いつでも本規約を変更することができます。変更後の規約は、本サイト上に掲載された時点で効力を生じるものとし、利用者は変更後の規約に拘束されるものとします。
第11条(準拠法および合意管轄)
本規約の解釈にあたっては、日本法を準拠法とします。本サイトの利用および本規約に関連して生じる一切の紛争については、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とします。


