午後2時の会議室。昼食後の抗いがたい眠気に襲われて、思考が止まってしまう。
夕方になると理由のわからないダルさが押し寄せ、ジムに行く予定だったのに「もう無理…」と帰路についてしまう。
私たちはつい、こうした不調を「気合が足りないから」「最近、体力が落ちたのかな」と、自分の精神力や年齢のせいにしがちです。真面目な方ほど、自分を責めてしまうかもしれません。
でも、少し立ち止まって考えてみてください。
もしそれが、あなたの意志の弱さではなく、身体の中で起きている「エネルギー(血糖)の波」が引き起こしている現象だとしたらどうでしょうか?
もちろん、眠気やダルさには睡眠不足や自律神経の働きなど、さまざまな要因が絡み合っています。しかし、最新のテクノロジーは、その大きな要因の一つとして「血糖値の急激な乱高下(スパイク)」が隠れている可能性を教えてくれます。
この見えない身体の中の波を、まるで映画のように連続して映し出してくれる技術。それが「CGM(持続血糖測定器)」です。
1. 「点」の管理から、「線」の物語へ

「会社の健康診断では『異常なし』と言われたから、血糖値は大丈夫」。
そう安心している方も多いかもしれません。しかし、ここには大きな落とし穴があります。
健康診断や、指先で血を採って測る従来の測定は、あくまで「その瞬間の写真(点)」に過ぎません。
空腹時の静かな状態だけを見て、「嵐は起きていない」と判断しているようなものです。
一方でCGMは、24時間365日、あなたが寝ている間も仕事をしている間も、ずっと記録し続ける「動画(線)」です。
- 従来の測定:「今の数値は正常範囲内です」(点)
- CGM:「お昼にパスタを食べた後、急激に上がって、その反動で今は急降下しています」(線・トレンド)
この「流れ」が見えることで初めて、健康診断では見逃されていた「食後の隠れスパイク」や、寝ている間にエネルギー切れを起こす「夜間低血糖」といった、不調の真犯人(かもしれない存在)を見つけることができるのです。
2. 痛くないの? どうやって測っているの?
「24時間ずっと測定する」と聞くと、点滴のように針を刺し続ける痛々しい姿を想像されるかもしれません。
安心してください。CGMのセンサーは500円玉くらいの大きさで、二の腕やお腹にピタッとシールで貼るだけです。
装着する瞬間にチクリとする製品もありますが、つけてしまえば痛みはほとんど感じません。耐水性もあるので、お風呂もプールも、激しい運動も、つけたまま普段通りに生活できます。

「川の本流」と「伏流水」の関係
少しだけ専門的な仕組みをお話しします。
実はCGMは、血管の中の血液を直接測っているわけではありません。血管から細胞の周りに染み出した「間質液(かんしつえき)」という水分の糖分を測っています。
これを「川」に例えてみましょう。
- 血管(血液): 勢いよく流れる「川の本流」
- 間質液: 岸辺の土にじんわりと染み込んだ「伏流水」
上流で雨が降って本流(血液)の水かさが増すと、少し遅れて岸辺(間質液)にも水が染み渡ります。
これと同じで、CGMの数値は実際の血糖値より5分〜15分ほどのタイムラグがあります。「手元のスマホのグラフは、少し前の身体のニュースを伝えているんだな」と、おおらかに捉えるのが使いこなすコツです。
3. CGMが教えてくれる「3つの発見」
実際にCGMをつけてみると、多くの人が「えっ、私の身体ってこうだったの!?」と驚く発見に出会います。
数値に一喜一憂して厳格に管理するためではなく、自分の身体の「クセ」を知るために使ってみてください。

① あなただけの「相性の良い食事」が見つかる
「お蕎麦はヘルシーだから大丈夫」「玄米なら太らない」といった一般論が、あなたには当てはまらないかもしれません。
ある研究では、同じバナナを食べても、血糖値がほとんど上がらない人と、急上昇する人がいることが分かっています(これを「Glucotypes(グルコタイプ)」と呼びます)。
「私はおにぎりだと上がるけど、サンドイッチなら平気みたい」。そんな風に、あなただけの正解を見つける実験を楽しんでみてください。
② 「ちょこっと運動」の魔法を目の当たりにする
「運動は身体にいい」と頭では分かっていても、忙しいとつい後回しにしがちです。
でも、CGMのグラフを見ると、その効果に驚かされます。
食後にソファでスマホを見ている時のグラフと、近所を15分だけ散歩した時のグラフ。見比べてみると、散歩した方は血糖値の山が明らかに低く、穏やかになる傾向があります。
「たったこれだけで、こんなに違うの?」という視覚的なインパクトは、どんな健康アドバイスよりも強力なモチベーションになります。
③ 心の疲れも、ちゃんと身体に出ている
甘いものを食べていないのに、会議の前や緊張する場面で数値が上がることがあります。
これは、身体がストレスと戦うために「コルチゾール」などのホルモンを出して、エネルギー(糖)を動員しているサインかもしれません。
また、睡眠不足の翌日は、いつもと同じ食事でも血糖値が乱れやすくなることもあります。
「ああ、今日は数値が落ち着かないな。きっと疲れが溜まっているんだ」と気づけたら、自分を責める代わりに「今日は早めに寝よう」と、自分をいたわる理由にしてください。
4. 日本で出会えるパートナーたち(2026年版)
現在、日本国内で手軽に利用できる代表的なデバイスは、以下の2つのシリーズです。
あなたのライフスタイルに合わせて選んでみてください。
| シリーズ名 | 特徴とスタイル | こんな人におすすめ |
|---|---|---|
| FreeStyleリブレ シリーズ (Abbott社) | スマホをセンサーに「かざして」データを読み取るタイプが主流です。 (※最新機種では、かざさなくても自動でデータが飛んでくる機能も選べます) | 「自分のペースで知りたい」派 通知に追い回されず、気になった時だけ確認したい方。多くのクリニックで採用されています。 |
| Dexcom G7 (Dexcom社) | 何も操作しなくても、スマホやApple Watchに「リアルタイムで自動表示」され続けます。 | 「常に見守りたい」派 変動を細かくチェックして、パフォーマンスを一定に保ちたいビジネスパーソンやアスリート向け。 |
【大切なお知らせ:入手方法について】
これらのデバイスは本来、インスリン注射が必要な糖尿病の方などの治療管理のために承認された高度管理医療機器です。
そのため、糖尿病の診断を受けていない方が健康管理目的で使用する場合(いわゆる「適応外使用」)は、健康保険が使えず「全額自費」となります(目安:センサー1つで数千円〜1万円程度で、2週間ほど使えます)。
最近では、未病ケアや体質改善のために、これらの機器を使ったプログラムを提供するクリニックも増えています。初めての方は、データの見方を教えてくれる医師のサポートを受けながらスタートすることをお勧めします。
今日からできる「小さな習慣」
〜CGMが教えてくれた、身体へのプレゼント〜
「デバイスを試すのは、もう少し先でもいいかな」。そう思う方も、もちろんいらっしゃるでしょう。
でも、ご安心ください。CGMがなくても、あなたの身体をいたわるケアは、今この瞬間から始められます。
CGMのデータが私たちに教えてくれた数ある知恵の中で、最も手軽で、かつ効果的な「魔法」を一つだけご紹介します。
それは、今日からすぐに試せる、とても小さなアクションです。

Tiny Habit:食後の「ついで」ワンフロア移動
ジムに行って汗を流す必要はありません。着替える必要さえありません。
ただ、今日のランチの後、こんな「ちょっとした選択」をしてみませんか?
- オフィスに戻る時、エレベーターを使わずに、階段を「1階分だけ」自分の足で上ってみる。
- コンビニに行く時、一番近いお店ではなく、「もう一つ先の交差点のお店」まで歩いてみる。
たったこれだけ? と思われるかもしれません。ですが、この小さな積み重ねが、驚くほど大きな違いを生むのです。
なぜ、これが効くの?
〜筋肉という「エネルギー工場」の秘密〜
食事をした後、私たちの血液の中にはエネルギー(糖)がたくさん流れてきます。
この時、太ももやふくらはぎといった「足の大きな筋肉」を少しでも動かしてあげると、筋肉がポンプのように働いて、血液中の糖をすっと吸い上げてくれます。
少し専門的なお話をすると、筋肉の中には「GLUT4(グルット・フォー)」という働き者がいて、彼らがドアを開けて糖を迎え入れてくれるのです。
面白いことに、この働きは食後すぐに行うのがポイントです。
ニュージーランドのオタゴ大学の研究チームが行った調査でも、まとめて運動するよりも、「毎食後に10分だけ歩く」方が、食後の血糖値の上昇をより穏やかに抑えられることが分かっています。
眠気対策のコーヒーを飲む前に、まずは階段を一段、踏みしめてみる。
その小さな「ついで」の動きが、食後の眠気の波を穏やかにし、午後のあなたを軽やかにする一番の近道なのです。
今後別の記事で、詳しく、いろんなTipsをお伝えします。
無理なく続けられる工夫を一緒に見つけていきましょう。
おわりに:あなたの身体は、一番の味方
CGMは、自分を厳しく「監視」するための道具ではありません。
「こうすると楽になるんだな」「この食べ方は負担がかかるんだな」という、心地よいリズムを見つけるための、頼れる味方です。
自分の身体の声を聞くことは、わがままではありません。
それは、あなたが明日も、その先も、あなたらしく輝き続けるための、最も価値のある投資です。
さあ、まずは今日の食後。スマホを見るのをやめて、5分だけ外の空気を吸いに歩いてみませんか?
あなたの身体はきっと、軽やかさで応えてくれるはずです。
参考文献
- Hall, H., Perelman, D., Breschi, A. et al. (2018) ‘Glucotypes reveal new patterns of glucose dysregulation’, PLOS Biology, 16(7).
- Blaak, E.E., Antoine, J.M., Benton, D. et al. (2012) ‘Impact of postprandial glycaemia on health and prevention of disease’, Obesity Reviews, 13(10), pp. 923–984.
- Klonoff, D.C. et al. (2020) ‘Performance of a new generation continuous glucose monitoring system’, Journal of Diabetes Science and Technology, 14(6), pp. 1039–1049.
- Reynolds, A.N., Mann, J.I., Williams, S. and Venn, B.J. (2016) ‘Advice to walk after meals is more effective for lowering postprandial glycaemia in type 2 diabetes mellitus than advice that does not specify timing: a randomised crossover study’, Diabetologia, 59(12), pp. 2572–2578.
- Penckofer, S., Quinn, L., Byrn, M. et al. (2012) ‘Does glycemic variability impact mood and quality of life?’, Diabetes Technology & Therapeutics, 14(4), pp. 303–310.
- Richter, E.A. and Hargreaves, M. (2013) ‘Exercise, GLUT4, and skeletal muscle glucose uptake’, Physiological Reviews, 93(3), pp. 993–1017.
- 日本糖尿病学会 (編) (2024) 『糖尿病治療ガイド 2024–2025』, 東京: 文光堂.
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の治療法や医療機器の使用を推奨するものではありません。個人の健康状態に関するご懸念や、CGMデバイスの使用可否については、必ず専門の医療機関にご相談ください。
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